2024年3月 吉崎柳歩選
課題 「困る」
集句 136句
入選 18句(うち佳句3句、秀句2句)
入選句
1 若く見え優先席に座れない はぐれ雲
2 久々の喪服へきつい腹回り 竹中正幸
3 円高で困り円安でも困り 休鶏
4 もう一品困ったときの冷奴 徳重美恵子
5 万博をやらなきゃ困るIR 甲斐良一
6 俺様が俺がオレがと困らせる 平尾定昭
7 お祝いを上げた以上に返される 風間なごみ
8 本人は別に困ってないいびき 橋倉久美子
9 前口上と違う用心棒の腕 翔のんまな
10 運転の自動化困る代行車 颯爽
11 機種変のスマホが母を困らせる たごまる子
12 帯枕うまく上がらぬ五十肩 澁谷さくら
13 困らせていたらしいこと後で聞く まちのあき
秀句 すこしだけ困る程度の頼みごと まちのあき
選 評
佳句 笑顔より困った顔の方が好き なつなつまーず
「好き」とあるからには「好きな人」なのだろう。笑顔より「困った顔」の方が好きということは、つまり、その渋い顔に惚れていると言いたいのだろう。
佳句 居酒屋の会計させるセルフレジ 羽馬愚朗
アルバイトも雇えないような人手不足の居酒屋。都会ではセルフレジを導入したお店もあるらしい。味気ないのはもちろんだが、酔いも覚めてしまうのではという作者に同感。
佳句 顔文字で困った顔をして見せる 甲斐良一
スマホのメールでのやりとり。嬉しい時や悲しい時には文章に顔文字を添えるが、困ったときには困った顔文字だけを送ることが多い。「顔をして見せる」が良い。
秀句 居心地が良いのか客が帰らない 西田峰春
句の中に「困る」を読み込んでいないが、一読して「それは困るだろう」と共感してしまう。礼儀として歓待しているのだが、この後の予定もある。いまさら箒を逆さに立てるわけにもいかないし、こちらから「この辺で・・・」とも言いにくいし・・・。
秀句 すこしだけ困る程度の頼みごと まちのあき
「頼みごと」をされたのはこちら側であろう。金を貸してくれだとか、講演をしてくれとかいう頼みごとなら即座に断れるが、ちょっと予定が狂う程度の「断りにくい」頼みごとなのだろう。「すこしだけ困る程度」という措辞が微妙なところを突いている。