2025年5月 吉崎柳歩選
課題「帽子」
集句 158句
入選 17句(うち佳句3句、秀句2句)
入選句
1 王冠に次は変えたいMAGA帽子 竹中正幸
2 野仏も帽子がほしくなる日射し 橋倉久美子
3 寅さんにも麻生さんにも要る帽子 芦田敬子
4 きまじめな人で帽子が似合わない 橋倉久美子
5 制帽でオンとオフとを切り換える ならひと
6 お若いと言われて帽子脱ぎかねる 知久白峯
7 親子でも贔屓が違う野球帽 竹中正幸
8 カウボーイハットが似合う無精髭 たごまる子
9 外野席帽子で受けたホームラン 多川義一
10 変装に一役かっている帽子 徳重美恵子
11 火の鳥もアトムも描いたベレー帽 八木五十八
12 還暦を少年にする野球帽 甲斐良一
佳句 帽子から子供食堂券が出る 安藤なみ
佳句 忘れないナースキャップにある重さ 澁谷さくら
佳句 野球する時みんなが被る野球帽 三村 舞
秀句 手品ではあまり使わぬ野球帽 西山竹里
秀句 謝罪するときはきちんと取る帽子 西山竹里
選 評
佳句 帽子から子供食堂券が出る 安藤なみ
子供食堂券には馴染みはないが、切符やメンコなどは帽子の内側の返しの部分に挟んでおいたものだ。時代は違うが子供の思いつくことは変わらないのだろう。意外な見つけ。
佳句 忘れないナースキャップにある重さ 澁谷さくら
ナースになったこともキャップを被ったこともないのであくまで想像だが、解るような気がする。キャップの微妙な重さ? それとも責任感? どちらでもOK。
佳句 野球する時みんなが被る野球帽 三村 舞
戦後すぐの時代にはグローブも布製だったりして野球帽などもなかったが、野球部はもちろん、遊びで野球するときも皆が野球帽を被る時代になった。「みんなが被る」が愉快。
秀句 手品ではあまり使わぬ野球帽 西山竹里
「手品ではシルクハットをよく使う」では川柳にならない。世間一般、老若男女の多くに愛用されている野球帽を、作者は「手品ではあまり使わない」「何故だろう」という、どうでもいい見解と疑問を、大真面目で発表しているのだ。そこが面白い。
秀句 謝罪するときはきちんと取る帽子 西山竹里
謝罪するときは先ず威儀を正して、帽子を被っていたら帽子も取ってきちんとお詫びしなければならない。「申し訳ありませんでした」と述べる前に、気持ちが相手に伝わるようにお膳立てをしておかねばならないのだ。「きちんと取る」の措辞が効いている。